soutroll's blog

そうたさんのお悩み相談室&日常

22歳

小学3年生の頃、母が不治の病と診断されたことを父の口から聞いた。
2個上の兄は泣き喚いて「どうしてだ」と叫んだ。
俺は泣かず、喚かず、ただじっとしていた。
そこから母は入退院を繰り返し、父、兄、俺のむさ苦しい生活が始まった。
父はもちろん夜遅くまで働いていた。自営業の車の整備工場を1人でやり繰りして、晩飯の時間になると弁当を買って帰ってきて、風呂を沸かして洗濯をして、また仕事に出かけていった。
俺たちが眠る頃帰宅し、俺たちが起きる前に仕事に出かけていく。
テーブルにはラップをかけられた目玉焼きとベーコン、口の空いたオーブントースターには焼かれていないパンが2枚放り込まれている。
兄とそれを頬張り、返事のない空間へ「行ってきます」を飛ばす。
そんな生活を繰り返したり、時には母が臨時退院をしいつもの生活が戻ったり。

なんだかんだ無事に小学校を卒業した。
卒業式には両親が来ていた、2人とも泣いていた。

中学に上がり、母がまた入退院を繰り返した。
薬の効果で髪の毛が抜けて、自宅以外ではカツラを被るその姿を見て俺は泣いていた。母の見えないところで、泣いていた。
母は、時折そんな自分自身に泣いていた。俺たちの見えないところで。
でも俺は見ていた。
きっと俺の泣いているところも、母には見えていた。

「まあ慣れてきたし、大丈夫」
そんな風に思ってた矢先、父が急逝した。
泣き崩れる母や親族。
この時も兄は泣き喚いて、「どうしてだ」と叫んだ。
俺は泣いていた。ただ何も言えずに。

俺たちは、10年以上住んだ家を出た。
住んでた街の外れの小さなアパートを借りて、中学一年生の俺と、中学三年生の兄と、母と3人暮らし。
別に辛くなかった。母は父が亡くなってから俺たちに気を遣ってか、優しく、もとい、甘やかすようになっていた。
「辛かったら無理しなくていいよ」
「大丈夫だよ」
そんな言葉に、俺たち自身存分に甘えていた。
でも、母がいればそれでよかった。
それさえあれば、生きていけると思ってた。

現実は残酷だった。
その春、母も逝った。長年の闘病生活に体は弱っていたし、父の急逝で精神も弱っていた。幼すぎた俺たちは母の心を支える事なんて出来なかった。
母のお通夜、葬式では泣かなかった。幼いながら、泣くわけにはいかないと思っていた。
火葬場で、焼却炉の扉が閉じる音で崩れ落ちた俺を抱きしめてくれたのは母でも父でもなく、親戚の叔母だった。

子供ではあったが、これからの俺たちがどうなるかなんて目に見えていた。
施設に入って、高校を卒業したらすぐに仕事をして………


俺たちは、独身の叔父に引き取られた。
祖父と、叔父と、兄と、俺とのより一層むさ苦しい生活。
擦り合わせの効かない価値観と、責任の1つも取ることの出来ない自分自身の幼さと、無力さを思い知った。
早く大人になりたかった。
高校にも専門学校にも行かせてもらった。本当に恵まれていると思う。
この身で返せるものなんて1つも無いのに。親もそうだけど、叔父の存在は俺にとって親のように偉大だった。
専門学校1年の冬、祖父が他界した。
齢98の大往生。老衰。
どうしてこうも俺の周りには不幸ばかり降りかかるのか、理由も確信も無く自分を責めた。

俺なんていない方がいい。
何度も思った。
でもその度に俺を必要としてくれる人が俺の周りに居てくれた。
恵まれていると、心から思った。


想像していた未来図の中じゃ俺は今就職して、仕事をしていて、平凡な暮らしを、だけど幸せな暮らしをしているはずだった。
それがどうだろう、今俺は血も繋がっていない赤の他人の3人と手を組んで、心を通わせて音楽を鳴らしている。
俺なんか居ない方がいいと思う度に、俺を必要としてくれと心で叫んでいた。
そして今、心の叫びを音楽に乗せて叫んでいる。
俺は今、バンドをやっている。
中学一年生の俺が見たら、泣いて喜ぶぞ、きっと。


どうしてこんな顔で、性格で、身長で、体重で、声で、産まれてきてしまったのかと思った事もある。
だけど、この顔で、性格で、身長で、体重で、声で産まれたからこそ、今の全てがあるんだと思えるようになった。
そう思えるようになってからは、全てが愛しく感じます。

俺は今日、22歳になりました。
あの日泣いていた、消えたいと願っていた少年は22歳になりました。
あなた達の息子は22歳になりました。

生きていて良かった。
周りの全てに、今までの出来事全てに感謝します。
7月12日は、両親と俺が初めて出会えた記念日です。
誰かと初めて会った日なんて覚えていられないものなのに、この日だけは生涯忘れる事はない。

俺はバンドをやっている。
歌を歌っている。
大切な人たちがいる。
叶えたい夢がある。
それだけで、生きていける。

お父さん、お母さん、俺を産んでくれてありがとう。届かなくとも、伝えます。
近いうち、花を供えに行きます。

このドラマの主人公は、俺です。
このドラマはこれからも続いていきます。
同じようにあなたのドラマも。
悲しいことも、辛いことも、苦しいことも「まるでドラマの主人公のようだ」と笑い飛ばせる気がするんです。


読んでくれてありがとう。
俺はこれからも精一杯生きていきます。
今日ここに全てを書いたことで、ここから一歩踏み出してみようと思います。
インターネットとか関係無いんです、今日の俺の一歩はここにある。
見届けてくれてありがとう。


あなたの人生に、俺の人生にドラマが溢れますように。



KAKASHI Vo./Gt
堀越 颯太