21歳の俺はとにかく髪が長かった。
人生であの頃より髪の長い期間はない。
肩まで届く髪の長さ、メガネ。
「何か」になるために「何か」を持たないと何にもなれないと信じ切っていた。
別に何も変わらなかった。
見た目だけじゃダメなんだ、って思った。
だから人が言えない事を言おうと躍起になった。
「言わなくていい事」を言っちゃう事が増えた。
色んな人を傷付けた。
「俺はこんな事をするためにバンドやってるんじゃない」と思った。
無理矢理生やしてしまったトゲは簡単には抜けてくれず、そんなつもりじゃないのにと思いながら傷付け続けていく日々だった。
でも周りから「尖ってる」と言われる事は、当時の俺にとって褒め言葉だった。
俺には「尖り」がある。
そう思えてしまったからだ。
何も持たずに、何も持てずに居た俺が「尖ってる」という印象を手に入れた。
周りから尖ってると言われる度に、尖っていていいんだと思うようになった。
だけど、そう長くは続かなかった。
俺は誰にも嫌われたくないし、出来るだけ誰も傷付けたくなんてないから、尖ることで嫌われたし、傷付けたし、何よりそれを代償として受け入れる覚悟が無かったからだ。
「嫌な気持ちになる人が居るならやめよう…」
そんな風に捨ててしまえる個性なら、最初から持つべきでは無かったのかもしれないと今なら思う。
バンドはその頃3枚目のミニアルバムを出した。
「愛すべき今日へ」というミニアルバム。
このツアーのファイナルでは、KAKASHI初の、そして俺の人生初のワンマンを前橋DYVERで敢行した。
見事、おかげさまでソールドアウト。
だけどこのツアーは過酷だった記憶がある。
ツアーでどこに行っても全然お客さんを集める事は出来なかったから。
自信と結果が比例しないのはいつも通りだけど、毎ツアーの結果に自信が打ち砕かれて、結果反比例になってしまうような感覚だった。
その頃、伸び切っていた髪の毛を切った。
「俺は何者にもなれないから、本物になろう」
と理屈っぽくも自分の腑に落ちた感覚で、ありのままになろうと思ったから。
同時に2年住んだ相模原を出て、下北沢に住まいを移した。
ここから改めてスタートしよう。
そう思った矢先、俺の喉にポリープが出来た事が発覚したのであった…
(そのうち続く)